仮想通貨チャート分析 〜テクニカル指標の有効性をデータで検証する〜

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前回のブログでは、アドレスごとのビットコインの保有量や取引量を確認することで、ビットコインの盛り上がり度合いを分析しました。今回は視点を変えて、価格の観点から仮想通貨の特徴を見ていきます。

前回のブログでは、アドレスごとのビットコインの保有量や取引量を確認することで、ビットコインの盛り上がり度合いを分析しました。今回は視点を変えて、価格の観点から仮想通貨の特徴を見ていきます。

ビットコインをはじめとする仮想通貨の多くは、主にとしての役割が期待されていますが、株やFXと同様、投資・投機対象としても魅力があり、その人気は徐々に高まりつつあります。 図1は、poloniexという取引所でUSDT(Tether USDというUSドルとほぼ同価値を持つ仮想通貨)と交換可能な9つの仮想通貨、Bitcoin(BTC)、Ethereum(ETH)、Ethereum Classic(ETC)、Ripple(XRP)、Litecoin(LTC)、Zcash(ZEC)、Stellar(STR)、Monero(XMR)、Dash(DASH)の、2015年12月からの価格(単位:USDT)の推移を示しています。図から、全ての通貨価値が約半年で数倍〜数十倍になっていることが分かります。とんでもない上昇率です。12月以前に購入した人は、ただ保有しているだけで大きな利益を得ていることが分かります。しかし、局所的にはかなり暴落している期間もあり、例えばRipple(XRP)は5月中旬に数日で価値が半分になるなど、購入するタイミングによっては大きな損失を抱えてしまうことにもなるので注意が必要です。

図1. USDTに対する日別平均価格の推移

では仮想通貨トレードは、FXなどと比べた時に他にどのような違いがあるのかを考えてみます。私が考える大きな相違点としては、仮想通貨の価格は取引所によって大きく異なる場合があることや、見せ板や価格操作に対する規制が整っていないため、いわゆるダマしが発生しやすい環境にあることなどが挙げられます。さらに、現時点では取引所によっては取引手数料がゼロまたはマイナスであることや、FXなどと比べると流動性はまだまだ少なく、大量注文の際のマーケットインパクトが大きいことなども、トレードを考える上では非常に重要な特徴です。以下にFXや株と比較した時の主な仮想通貨の相違点をまとめます。

<仮想通貨の特徴> ・価格はいまのところ上昇トレンドが継続中 ・ボラティリティが非常に大きい ・取引所によって価格が大きく異なる ・見せ板や価格操作に対する法的規制がない ・取引手数料がゼロ以下の取引所が存在する ・FXと比較すると流動性は少なく、マーケットインパクトが大きい

このように、仮想通貨特有の性質もありますが、チャート的にはFXとの共通点も少なからず存在します。図2は、今年5月15日のUSDT/BTCの15分足ローソクチャートと、いくつかのテクニカル指標をプロットしたものです。15分間隔でみると、当然ですが1日の中でもトレンドやレンジのようなものが発生しており、従来のテクニカル指標によってうまく表現できているように見えます。実際、5月15日に限っていえば、いわゆるデッドクロスのタイミングで売り、ゴールデンクロスのタイミングで買うことで利益を得ることができそうです。同様に、RSIを売られすぎ/買われすぎ判定として活用したり、MACDとMACDシグナルのクロスタイミングでトレードしても、そこそこ勝てそうな気がします。他にも、ボリンジャーバンドやパラボリックSARもトレンドや売買タイミングの判定には有効そうです。従来からテクニカル分析として重宝されてきた指標たちは、仮想通貨トレードにおいても威力を発揮する...かもしれません。実際に検証してみる価値はありそうです。

図2. 15分足ローソクチャートとテクニカル指標

図はあくまで5月15日の推移だけを見ているため、これだけでは有効かどうか判断できません。大暴落のタイミングや売り崩し等に対応できるかどうか、トレンドのない日の挙動なども検証する必要があります。そこで我々は、直近1ヶ月の期間を対象としたバックテストを行うことで、いくつかの指標の当てはまりの良さを検証していくことにしました。テストの結果、1ヶ月間で収益率79.7%を達成した指標もあり、指標によっては単独で使用してもフィットすることが明らかになりました。詳細は以下で説明していきます。

バックテストによる検証 テスト条件と検証する戦略について 今回は、取引所poloniexがAPを通じて提供しているチャートデータを使用し、2017/5/1〜2017/5/31の1ヶ月間をテスト期間としました。期間は長めにとっても良いのですが、価格やプレーヤーが大きく流動する仮想通貨トレードにおいては、データの鮮度も重要であると考え、まずは先月1ヶ月のみとしました。図1でも見たように、5月チャートには暴騰・暴落も含まれており、テストを実施するには良いデータであると考えています。テストのファーストステップとして、トレードのペアはまずはUSDT/BTCのみ、ポジションはロングのみで実施しています。テクニカル指標は、算出間隔によって判定が異なってくるため、5分足、15分足、30分足、2時間足、4時間足、1日足それぞれの間隔で独立でテストを実施しています。約定価格は売買判定時刻〜5分後の間の平均価格、取引量は常に一定のUSDT分であり、複利運用は行わない想定で実施しました。結果の良し悪しは主に収益率(損益額 ÷ 初期資産額)で評価します。ここで注意しなければいけないことは、現状BTCは、ただ保有しているだけで多くの収益率を得ることができる点です。テクニカル指標を活用して、収益率がプラスであっても、ずっと保有していた時の収益率よりも下回っていれば、意味のある戦略とはいえません。そこで、1ヶ月間ずっと保有する戦略(戦略名:HOLD)をベンチマークとします。少し条件が複雑になってしまったので、以下にリストとしてまとめます。

<バックテスト条件と評価方法> ・poloniexのチャートデータを使用 ・テスト期間は2017/5/1〜2017/5/31の1ヶ月間 ・USDT/BTCペアのみ ・ポジションはロングのみ ・指標算出間隔は5分足、15分足、30分足、2時間足、4時間足、1日足それぞれでテスト ・約定価格は、売買判定時刻〜5分後の間の平均価格とする ・常に一定量のUSDTでトレード ・評価指標は収益率 ・1ヶ月間ずっと保有する戦略(HOLD)をベンチマークとする ・最後の売買判定時にポジションを持っていた場合は、最後の時刻で強制決済

テストにて検証する戦略は、特に奇抜なことはせず、セオリーにしたがって、シンプルなものを採用しました。表1は、検証した戦略と売買タイミングの一覧です。

表1. 検証する戦略

テスト結果 以上の条件で、それぞれの戦略に対してバックテストを実施しました。表2は、バックテスト結果の評価値まとめです。それぞれの手法で、最も性能の良かったパラメータによる結果を記載しています。ここで間隔(秒)とは、テクニカル指標算出の1時刻の単位を表しています。

表2. バックテスト評価値

結果を確認すると、SARとMACD戦略が、収益率でHOLDを超えてきました。SARでは、なんと79.7%もの収益率を達成し、とったポジション全てで利益を出すという、優秀すぎて怪しい結果を出しています。その他の戦略も、HOLDには負けましたが、マイナスにはなっておらず、戦略の組み合わせ次第では良い結果になるかもしれません。

怪しい結果のSARについて詳しく確認していきます。表3に、ベストパラメータ以外も含む全ての結果を記載しています。算出間隔によって結果にばらつきはあるものの、300秒(5分足)と86400秒(1日足)以外の算出間隔でベンチマークを上回っており、指標自体の当てはまりが良いことが分かります。

 表3. SARの全パラメータの評価値

では、どこでポジションを持ち、どこで決済をしていたのでしょうか。ポジションを平均価格にプロットして確認していきます。 まずは最も結果の良かった7200秒間隔でのポジションを図3に示します。ここで、青色の実線は、ポジションを持っており、かつ結果的に利益を得ることができた期間を意味しており、灰色の実線はノーポジションであった期間を、灰色の点線はSARを表現しています。

図3. SAR手法のポジション推移(間隔 = 7200)

図3では、ほとんどのポジションにおいて安い価格で買い直し、再び高く売り抜けており、かなり理想に近いトレードであると言えるでしょう。暴落にも全く巻き込まれていないことは評価できますが、最後から2つめのポジションにおいては、下落時にたまたまSARと平均価格が交差しなかっただけで、仮に交差した場合、そのタイミングで損切りだったので、全勝は紙一重だったといえます。

続いて、SAR戦略だが結果の良くなかった86400秒(1日足)と300秒(5分足)のポジションプロットをそれぞれ図4と図5に図示します。赤の実線は結果的に損失を計上したことを意味しています。 図4の86400秒の方は、取引回数も少なく、トレンドにも乗れているのですが、利確のタイミングが遅すぎたことが、収益率が低いことの原因として挙げられます。また、再び上昇トレンドに移行しているにもかかわらず、まだまだ買いタイミングは訪れそうにないため、仮想通貨トレードにおいては86400秒単位だとスピードに対応できないようです。 一方の図5では、逆にトレンドに敏感に反応しすぎており、結果的に不要であった決済が多くなってしまっています。

図4. SAR戦略のポジション推移(間隔 = 86400)

図5. SAR戦略のポジション推移(間隔 = 300)

他の戦略(MACD、BBANDS、RSI、SMA)のポジション推移も順に見ていきましょう。図6はMACD戦略のベストパラメータ時のポジションプロットです。MACD戦略では、すぐにポジションを解除しつつ、トレンドには乗れている点が評価できます。特に、暴落時のダメージが少ない点や、日々安定した収益を挙げている点が良いです。ただし、不要な決済が少し多いようなので、この課題をうまく改善するような指標と組み合わせるなど、改善の余地はありそうです。

図6. MACD戦略のポジション推移

図7はBBANDS戦略のベストパラメータにおけるポジションプロットです。暴落にかなり巻き込まれてしまっていますね。BBANDSのような逆張り的な戦略は、想定以上の大暴落時には損失が膨らんでしまうので、仮想通貨取引には向いていないのかもしれません。

図7. BBANDS戦略のポジション推移

図8はRSIのベストパラメータにおけるポジションプロットです。RSIの変動が激しすぎて、ポジション取りにも意図が感じられません。暴騰には乗れていないのに、暴落にはしっかりと巻き込まれてしまっています。RSIは単一の指標ではうまくいかないようです。

図8. RSI戦略のポジション推移

最後に、SMA戦略のポジションプロットを確認していきます。こちらは、トレンドにうまく乗れている点は良いのですが、特に暴落時には含み益が激減したあとで決済してしまっていますね。ポジションを取るタイミングは悪くないように思います。SMA戦略は買いのタイミングのみで活用することが良いと考えます。

図9. SMA戦略のポジション推移

まとめ テクニカル指標を活用したシンプルな戦略が、仮想通貨トレードにおいてどの程度有効かをバックテストにて確認してみました。その結果、仮想通貨のチャートの特徴に合う戦略があり、シンプルな戦略でも十分な収益率をあげることができる可能性を示しました。収益率があまり良くない指標でも、課題を補う指標と組み合わせたり、部分的に採用することで、うまくいく可能性がありそうです。これらのテクニカル指標は、機械学習的アプローチによる売買タイミングを予測する際の説明変数としても威力を発揮しそうですね。こうしたアプローチに関しても、別の機会に共有できればと思います。また、システムトレードを行う場合は、ポートフォリオや最適執行戦略も考える必要があり、その辺についても今後議論したいと考えています。

※今回の検証はあくまでバックテストであり、収益を保証するものではありません。投資・投機は自己責任でお願いします。 ※本記事は、仮想通貨の実態を明らかにする研究の一部であり、仮想通貨トレードを勧めるものではありません。

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